消防吏員の世界における暑熱順化トレーニングに対する違和感
火災現場へ向かっていく僕たち消防吏員ですが
ご存知のとおり
ただの人間でありスーパーマンではありません。
暑い季節になれば当然に熱中症に罹るリスクを背負って活動しています。
熱中症警戒アラートとは
2021年から全国で運用が開始された熱中症警戒アラート。
危険な暑さが予想される場合に
国民に対して暑さへの気づきを促し熱中症への警戒を呼びかける制度で
前日の17時頃又は当日の朝5時頃の一日2回発表されます。
熱中症特別警戒アラート運用開始
2024年4月からは一段上の熱中症特別警戒アラートの運用も開始されるなど
いよいよ日本の気候も異常なまでに暑くなってきました。
アラート発表回数
今年2024年の熱中症警戒アラートの発表回数を見てみると
統計開始の4月24日から7月31日までの間で
全国で668回、愛知では19回
運用が開始された熱中症特別警戒アラートは
7月31日の今日現在で0回です。
アラート発表時の行動
熱中症警戒アラートが発表された地域は
気温が著しく高くなることから熱中症による人の健康に係る被害が生ずる恐れがあるので
「他人事と考えず、暑さから、自分の身を守りましょう!」
という制度です。
具体的な行動としては、次の内容が例示されています。
消防組織内での対応
では
熱中症警戒アラートが出された場合
僕たち消防吏員はどうすれば良いのでしょうか。
「涼しい環境以外では運動等を中止しよう」
これって非常に難しいんですよね。
消防機関は市町村単位で組織されているので
各消防機関でアラート発表時の対応が異なってきます。
消防機関(市町村)によっては
熱中症警戒アラートが発表されたら
訓練は一切禁止!
とする
運用を強いてるところもきっとあるでしょう。
そりゃそうですよね。
消防吏員も人間ですから熱中症に罹りますもん。
国が「危険だから運動を控えなさい」
って言ってるのに
訓練なんかして隊員が倒れたら責任が問われますので
暑い環境下では訓練なんかさせない方が安全であり安心です。
ただ怖いのが
暑い環境下での訓練を禁止したとしても
僕たち消防吏員は指令がかかれば
必ず災害現場へ出動しなければならないのです。
訓練で暑さを知っておかなければ
日常から暑さに慣れておかなければ
災害現場で活動することなんて
絶対に無理なことであって
暑さを教えずに
暑さに慣れさせずに現場へ向かわせることこそ
隊員の命を危険に晒す行為だと言えます。
暑熱順化とは
今となっては当たり前に耳にするようになった暑熱順化
暑熱順化とは端的に表現すると
身体が暑さに慣れることであり
暑い日が続くと身体は次第に暑さに慣れていき、暑さに強くなります。
熱中症発症メカニズム
運動や仕事で身体を動かすと
体内では熱が作られて体温が上昇します。
体温が上昇しても
汗をかく気化熱や、心拍数の上昇や皮膚血管の拡張で
体表面から空気中へうまく熱を逃がし体温を調節します。
身体が熱に慣れておらず
この体温調節がうまくできなくなると
身体の中に熱が溜まってしまい熱中症を引き起こします。
暑熱順化の効果
暑熱順化が進むと
発汗量や皮膚血流量が増加します。
これにより体表面から熱を逃す熱放散がしやすくなります。
暑熱順化に有効な対策
暑熱順化は
「身体を暑さに慣れさせることが重要」です。
気温が上がり熱中症の危険が高まる前に
無理のない範囲で汗をかく習慣が大切です。
個人差もありますが一般的には
暑熱順化させるためには
数日から2週間程度かかるそうです。
消防吏員の世界での暑熱順化
消防の世界で
この「暑熱順化」という言葉を耳にするようになったのは
2009年頃からだったと思います。
この頃から各消防機関が独自で
暑熱順化トレーニング
というものを取り入れるようになりました。
暑熱順化トレーニングの検証
日本の消防の世界を牽引する消防機関といえば
やはり東京消防庁さん。
現場で活動する隊員が実用的かつ効率的に暑熱順化できるように検証を重ねてきており
消防技術安全所報などを通じて全国の消防機関へ展開してくれています。
踏み台昇降運動を用いた暑熱順化の効果検証から始まり
防火服などを完全着装した消防活動訓練や雨ガッパを着装してのランニングなど様々な検証を経て
精神論などではなく
より実用的で効率的な暑熱順化の方法を見出してきてくれています。
目的は
暑熱下での現場活動に際して隊員が熱中症にかからないこと。
無理なく実用的で効率的なトレーニング方法を用いて隊員を熱中症から守る。
本格的な夏(暑い時期)が来る前に
計画的に隊員の身体を熱に慣らしていく。
これに加えて
これらによって
現場で活動する隊員を熱中症のリスクから守ることができるのです。
愛知を牽引する名古屋市消防局さんもSNSなどを通じて
隊員の暑熱順化トレーニングの状況を発信してくれています。
勘違い?暑熱順化トレーニング
東京消防庁さんや名古屋市消防局さんといった
大きな消防機関ではきちんとした検証を経て
暑熱順化の環境を整えてくれています。
しかしながら
消防の世界は市町村単位、、、。
政令指定都市など大規模な組織は良いのですが
課題が残るのは中核市以下の小さな消防機関の存在です。
暑熱順化に対する科学的な検証は行えません。
なんとなく見よう見真似で
暑熱順化のトレーニングを取り入れようとしてしまいます。
なんとなく
皆んなで防火服を着装して空気呼吸器を背負って夕方に歩いてみる。
なんとなく
皆んなで炎天下に防火服を着て腕立て伏せをしてみる。
なんとなく
暇な時間を潰すために
やってます感を出して満足感を出すために
それっぽいことをやってみる。
「なんとなくな暑熱順化トレーニング」
案外こんな実情を抱えている消防機関は多いと思います。
暑熱順化トレーニングはやらない
恥ずかしながら僕の職場も
「なんとなくな暑熱順化トレーニング」
をやっています。
先日、他の本署に勤務している後輩と顔を合わせました。
元気にしてる?
ちゃんと仲間と訓練に励んでるかい?
恥ずかしながら訓練は全くやってません、、、。
でも暑熱順化はやってますよ!
夕方に隊員と一緒に防火服着て歩いてます!!
もちろん署で違いますし
各小隊でも違います。
ただきっと
全体としては勘違いな暑熱順化トレーニングを
「なんとなく」やっているんだと思います。
では僕の消火隊ではどうかというと
僕は新年度が始まった4月の時点で
「申し訳ないけれど僕のチームでは暑熱順化トレーニングは一切やらないよ」
と仲間たちへ宣言しています。
災害による不安や恐怖の中でも
望みや期待を託してかけてきてくれる市民からの119番通報。
現場に到着してホース1本うまく延ばせなかったり
右往左往して活動が展開できなかったり
体力がなくて休憩してばかりいたり
市民の方がかけて来てくれる
119番通報に乗せられている想いを
僕は大切にしていたいのです。
いかなる災害現場に呼ばれても
即時に対応できて最後まで活動し続けられる強いチームで居たいんです。
だから
どれほど暑い季節が来ても僕たち消火隊は
暑さを理由に倒れていてはダメなんです。
僕のチームは4月から毎勤務を全力で教養し全力で訓練に励みます。
そのための1年間のカリキュラムも用意してある。
暑熱順化トレーニングをしなくても
暑い夏が来た頃には
強く逞しく優しい隊員に育っている。
だから
僕のチームは暑熱順化トレーニングはやりません!
じゃあ
今年度の夏はどうかというと、、、
やっぱりみんな強いんですよ。
そして何よりも
隊員間でも
市民の方に対しても優しい
本当に自慢の仲間たちなんです(^-^)v
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