実録火消し24時 要救助者の体重は何kg?
今日は、要救助者の「体重」に着目してみます。
火災現場でも救助現場でも
僕たち消防士が最も優先して行う活動は
「要救助者」の救出活動です。
消防白書によれば
火災による死者の約7割が65歳以上の高齢者です。
つまり
火災現場で最も多く救出する機会があるのは65歳以上の高齢者であると言えます。
この65歳以上の方の平均体重は
約63Kg
また日本人の全年齢の平均体重は
約60Kgです。
では
僕たち消防機関が保有する訓練人形は
一体どれくらいの重さなのでしょうか。
実は主として使われているのは
およそ40Kgの訓練人形なのです。
40Kgと言えば
日本人なら小学校6年生の平均体重と同じです。
実火災の現場で予想される要救助者の重さは約60kg
僕たち消防士が訓練で扱う要救助者用の訓練人形は約40kg
この20kgの差ってすごく大きいと僕は思うんですよね。
でも
予算化されて購入される訓練人形は40kgなのです。
なぜかって??
だって
訓練の準備をするときは軽い方が持ち運びが楽ですもん。
確かに訓練人形は軽い方が良いです。
ですが
僕たちが実火災の現場で向き合うのは人形ではなくて
人ひとりの命であり人生なんですよね。
現実とかけ離れた軽い訓練人形を使った訓練で
僕たちは一体何を学び得ようとしているのでしょうか。
「練習で出来ないことは試合では出来ない」
そんな言葉を学生時代から部活やスポーツを通じて聞いてきたように
消防の現場でも同じことが言えます。
「訓練でやれないことは現場でやれるはずもない。」
運よく上手くやれたとしても
人の人生を懸けた災害現場で
運や賭けに頼った活動を展開すべきではないと僕は思っています。
軽い訓練人形に慣れてしまうことで
- 隊員は要救助者の重さに耐えられず、救出を諦めてしまうかもしれない。
- 燃え盛る炎の中で初めて要救助者の重さを知り、必死に救出しようとパニックに陥るかもしれない。
全国の消防機関の中には
これまでに隊員が要救助者を落下させるなどし負傷させ、又は亡くならせる事故が発生しています。
このような痛たましい事故の背景には
軽い訓練人形による訓練の影響は少なからず潜んでいると僕は思っています。
では
そもそも訓練人形に頼らず
「生体」(生身の人間)を使って訓練すれば良いじゃないか!
って話になりますよね。
しかしながら
これはこれで消防機関はほぼ絶対にやらないんですよね。
なぜならば
「安全管理」がそれを阻むからです。
生体の要救助者を使って
万が一にもその要救助者役の隊員が怪我したりしたら
消防機関内部だけではなく
市役所からも市民からもマスコミからも
訓練における「安全管理」が問われて
該当する職員は処分だけではなく社会から徹底的に叩かれることになる。
だから生体での要救助者を使っての訓練は
「やらない」
「やらせない」
というのが
消防機関の基本スタンスになっているのです。
- 実際の要救助者に近い重たい訓練人形は使わない。
- それでいて生体による訓練は行わない。
一体僕たち消防士はどうやって要救助者の命や身体を守っていくのでしょうか。
僕が選ぶ手段
それは僕が要救助者になる。
軽い訓練人形じゃ
要救助者の身体の重みも命の重みも分かりゃしない。
だったら
落としても怪我しても良い僕が要救助者をやればいい。
そんな考えでこの数年要所要所で要救助者役をやっているわけですが
つい先日も要救助者をやってみると
やはり「重さ」に耐えられず僕を落とす隊員、、、
落とすどころか耐力が足りずに落とした僕に乗っかかる隊員、、、。
訓練ではどんだけでも失敗すればいい。
要救助者の「重み」を体感して
実災害時に狼狽えることなく救出活動に徹することができる自信と耐力を。
そして
実災害で確実に要救助者を救出できるように。
今日も明日もこれからもリアルを追求した訓練に仲間たちと励みたいと思います。
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