令和5年7月17日19時30分
義姉からLINEが届く。
「熱中症なのか。お父さんがグッタリしているとお母さんから連絡が来たよ。今旦那が様子を見に実家へ向かってるところ。夜勤中だったら心配かけるような連絡してごめんね。とりあえず実家は旦那が見てくれてます。」
心配していたことがついに起こった。
例年なら暑い時期を迎える前に親に連絡を入れて
我慢せずにエアコンを使うこと
小まめに水分補給をすること
お茶だけ飲んだってダメだから塩分も一緒に摂ること
を口うるさく伝えてきた。
実際に暑い季節が来たら
エアコンを使っているか
水分塩分を摂っているか
元気にしているか
親の顔を見に実家へ帰ってきた。
そんな毎年恒例の親子のやりとりも今年からはもう無くなっていた。
頑固者だし昔から無駄に丈夫な父親なので
直接息子が顔を見に行かなければ年甲斐もなく無理を重ねる男だ。
令和5年7月19日のその時間の僕は
夜勤ではなく
山口県美祢市で災害支援ボランティアをしていた。
当然
父親の元へ駆けつけることができるはずもない。
いつも頼りになる兄の存在に感謝です。
とはいえ
両親との決別を決めた僕なので
岡崎の家に居たとして
果たして父親の元へ駆けつけられただろうか。
山口県に居るということが
ある意味言い訳として使えたのではないかと安堵する情けない自分もいた。
父親の不調連絡を機に
それまで兄夫婦へ報告を控えてきた「両親との決別」について
僕の方から伝える。
親から話を聞いてきたであろう義姉も
気遣いの中で触れずにきたその話題に踏み込んできてくれた。
親から聞いてきた一面的な内容に
僕からの一面を聞き合わせて
義姉が出した意見は
「それでも親子は繋がっているべきであって、今回のことは神様がくれた良い機会なのかもしれないよ。」
と伝えてくれた。
僕は僕で正直に答える。
長女が仕掛けた悪意
孫可愛さで理性を失ってしまった親
怒りに任せて奥さんを怒鳴り叱りつけた親の行為
過ちは誰にでもあることだけど、傷つけた奥さんへ謝ることをしなかった親の姿勢
その全てを双方から聞いた上で僕が決めたのは
「奥さんを守ること」
限りある親との時間
かけがえのない存在である親
それでも僕は「奥さん」を選んだ。
きっかけは長女だったけれど
今のこの決別は誰のせいでもなく
僕自身が選んだ道だから。
だから
胸が締め付けられるほど痛いけれど
決別を決めた限りには僕はもう親には会いに行かない。
そんなことをLINEで話し合いました。
しばらくして
義姉から
「お父さんやっぱり救急車で搬送されたよ。」
と連絡が来た。
どうせ山口県からじゃ何も動けやしない。
今は災害支援が最優先だと自分に言い聞かせて眠りについた。
翌朝目覚めると
やはり父親のことが気になって元気が出ない。
でも
それでもカラ元気を出して災害支援にあたる。
そんな心持ちだからか
普段なら笑い飛ばすような些細なことにでもイラついてしまう自分がいた。
美祢市で一緒に活動していた安藤さんの行動が許せなくて
イライラしては同行してくれていたいっちーにマイナスな言葉をちょいちょい放っていました。
自分でも気づくほどのマイナスな言葉たち。
途中でいっちーに謝りを入れると
「ポタさんがマイナスなことを言うなんて珍しいですよね。でもマイナスな言葉を言っていると自覚してるところがまた偉いです。」
こう言う時は気心知れた仲間の存在ほど嬉しいものはない。
令和5年7月21日夜
美祢市での活動を終えて岡崎へ帰ってきた。
父親のことを奥さんが知っているのかも分からない。
疲れに任せて眠る。
翌22日
母親からLINEがきた。
「お父さんが入院しました。」
ドキドキが止まらなかった。
仕事を休んで病院へ駆けつけたかった。
誰にも言えないこの不安定な気持ちを押し殺す。
そして
僕のこの不安定な気持ちを紛らわすかのようにこの日は出動が続いて忙しかった。
これもまた救いなのか。
勤務明け
家に帰っても胸の奥はずっとソワソワしている。
頭の中は
「父親のことを奥さんへ話してもいいだろうか」
「父親の容体を見に病院へ行って良いかと聞いてもいいだろうか」
など僕らしくはない堂々巡りをしていた。
いっそ笑顔でさらっと聞けば済むものを。
ずっと言えずにいる。
考え事をしている僕を見て心配がる奥さん。
「どうかしたの?ボランティアの疲れが溜まってるんでしょ?何もしなくていいから寝てなさい!」
本当に優しい奥さんです。
聞くだけのこと。
たったそれだけのことが言えずにいる僕。
そして
繰り返すカラ元気。
まさに悪循環。
時間と日数だけが流れてく。
そして
重い口を開いて奥さんに伝える。
「実は父親が入院したんだ。」
奥さんはキョトンとした顔で答える。
「え?知ってるよ。てっきり知ってるかと思ってた。どうするかどうしたいかは、自分で決めるといいよ。」
え、、?
知ってたのか。
どうやら義姉から情報が逐一伝えられていたようだ。
奥さんは知っていて僕に伝えてなかったのか。
そこにはどんな感情があったのかな。
僕にはわかんないや。
ただ
不思議と父親へ会いたいという気持ちが薄らいだ。
どんな感情かは分からないけど
なんだか楽になった。
きっとあの頑丈で頑固者の父親なら大丈夫だ。
まだ死ぬことはないだろう。
親には兄夫婦がいてくれる。
僕は決別の道を選んだのだから。
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